(12) till death do us part (英語表現) 2017/03/19 19:03

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英語圏に行ったことがなくても、英語で映画やドラマを見ていれば "till death do us part" というフレーズをよく聞く。今回は、この表現の文法について解説する。

まずは、この表現には3種類のヴァージョンが出回っている。

(1) till death do us apart (これは間違いだけど、一部の人はこれを正しいと思っているようだ。ネット上でも、いくらかヒットする。)

(2) till death do us part (この形が最もよく流布しているらしい。)

(3) till death us do part (この形は、少なくとも 1662年から使われ続けているもともとの形だ。)


さて、(3) の形が元々の形だが、これについては

Stack Exchange (till death do us part について)
http://english.stackexchange.com/questions/4327/till-death-do-us-part

このページに書いてあるように、1662年に作られた The Book of Common Prayer に書いてあるフレーズだ。次の通り。

<< 引用はじめ >>
The Minister, receiving the Woman at her father's or friend's hands, shall cause the Man with his right hand to take the Woman by her right hand, and to say after him as followeth.

I N. take thee N. to my wedded wife, to have and to hold from this day forward, for better for worse, for richer for poorer, in sickness and in health, to love and to cherish, ★till death us do part★, according to God's holy ordinance; and thereto I plight thee my troth.

Then shall they loose their hands; and the Woman, with her right hand taking the Man by his right hand, shall likewise say after the Minister,

I N. take thee N. to my wedded husband, to have and to hold from this day forward, for better for worse, for richer for poorer, in sickness and in health, to love, cherish, and to obey, ★till death us do part★, according to God's holy ordinance; and thereto I give thee my troth.
<< 引用おわり >>

(The Book of Common Prayer, 1662)
http://www.eskimo.com/~lhowell/bcp1662/occasion/marriage.html

なお、上記の文章を紙版で読みたい人は、Everyman's Library のシリーズの中の一冊である "The Book of Common Prayer" を買うとよい。僕はそれを手元に持っている。


さて、この "till death us do part" なんて、現代の感覚からすれば間違った英語のように見えてしまう。現に、ネット上でも、Stack Exchange などで「なんでこんな間違った英語がまかり通っているのか?」というような質問をする人がいる。

これは、1662年、あるいはもっと古くからある台詞だ。その時代には正しかったのだ。”till death us do part" は、言い換えると "till death do part us" ということであり、現代風に言い換えると "till death parts us" つまり「死が私たち夫婦を引き離すまで」という意味なのだ。

現代語では death という主語には parts という、動詞の三人称単数の形がつかないといけない。しかし、たとえば Shakespeare の時代(つまり400年前くらい)には、till のあとは仮定法現在 (present subjunctive) を使うのが普通だった。つまり "till death part us" というふうに、parts という通常の形ではなくて part という仮定法現在の形でよかったのだ。

よく似た別の例を挙げると、"till she be married" という形を、安藤貞雄「現代英文法講義」では紹介している。これは Shakespeare の "Twelfth Night" 3.1.33 の台詞だそうだ。もちろんこれは、現代語では "till she is married" でよいのだ。

さて、"till death part us" が仮定法現在の形だということはここでわかった。さて、それでは "till death ★do part★ us" となるのはなぜか? "do part" というと part を強調した形のはずだというふうに、現代英語の文法知識から考えると結論したくなる。ところが、400年前くらいの Shakespeare の時代の英語(つまり Early Modern English)においては、別に強調なんてしていなくても "do part" とか "do go" とかいうふうに言っていたこともよくあったのだ。現に、僕が読んできたわずかながらの Shakespeare 作品においても、やはりそういう例はたくさんあった。そういうことを考え合わせると、どうも今回の "till death do part us" における "do part" は、強調しているわけでもなさそうだと思える。もちろん、強調しているのだとも考えることができる。しかし僕は今のところ、これは単なる "till death parts us" という意味だろうと考えている。

さて、"till death do part us" という形については、納得してもらえたろうか?今度は、us という言葉を前に持ってきて強調するような倒置法を使ってみる。そうすると "till death us do part" という形ができあがる。これで、上記の (3) にある、1662年の "The Book of Common Prayer" に載っている台詞である "till death us do part" というセリフそのものが出てくるわけだ。そして、一般にはこれを少し変えて、 (2) の "till death do us part" という形も流布しているわけだ。

ブラボー(3

コメント (5)

Felicia-J
Felicia-J
2017/03/19 19:09
説明ありがとうございます。そういうことだったんですね。
OED Loves Me Not
OED Loves Me Not
2017/03/19 19:17
なお、今回の "till death us do part" (till death do us part) という表現の考察にあたっては、すでに挙げたネット上のサイトの他に、次のような文献を参考にした。

(1) 仮定法現在について
安藤貞雄「現代英文法講義」、p.367

(2) "till death us do part" の元々の出典
The Book of Common Prayer, Everyman's Library, pp.301-302

(3) "auxiliary do" について。つまり、"do part" としていて、part と言う動詞を強調している場合もあれば強調していない場合も16世紀にはあったのだという解説
An Introduction to Early Modern English, Terttu Nevalainen, p.108-109

(4) Shakespeare の時代の英語の文法を網羅的に解説した本
A Shakespearian Grammar, G.A. Abbott
OED Loves Me Not
OED Loves Me Not
2017/03/20 18:24
ところで、ここで紹介した "The Book of Common Prayer" は、キリスト教徒でなくても読んでいて面白い。できれば通読したいと思うが、怠惰な僕は拾い読みしかしていない。でも、それだけでもけっこう勉強になる。Anglican Church で牧師たちが教会でどのような英文で祈りを捧げたり信徒たちに語り掛けているのかがよくわかる。

それをきちんと読んで覚えこんでおけば、映画などで牧師がよく言う台詞がよく理解できるはずだと思う。500ページくらいあるので、実にたくさんの祈りや儀式の方法や英語の台詞が紹介されている。1662年に書かれた本だけど、それよりもずっと昔からそこに紹介されているような英語で牧師たちはしゃべっていたに違いない。
上海bang
上海bang
2017/03/21 08:44
さすが、の一言です。ご丁寧な解説ありがとうございました。

あの詩は、Feliciaさんが書かれた中の傑作のひとつと思います。個人的には、最優秀賞を取られた詩よりも好きです。
OED Loves Me Not
OED Loves Me Not
2017/03/21 09:24
いやいや、この解説はあくまで僕個人の考えです。もっと勉強しているうちに、間違っていたと感じることもあるかもしれません。誰か偉い先生に尋ねたわけでもないし、ネイティブに尋ねたわけでもないのです。
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